この記事では、”におい”の閾値と嗅覚の順応について解説します。
”におい”には閾値(いきち)があるらしいけど、どういう意味なんだろう?
同じ”におい”を嗅ぎ続けると、”におい”を感じられなくなるのは何でだろう?
そんな疑問に香料メーカーで研究職をしていたkaoriがお答えします。
”におい”の重要な概念に閾値(いきち)があります。
漢字を見るとむずかしそうですし、普段はあまり耳にしない言葉ですよね。
けど、実はカンタン!
閾値とは、あなたが「”におい”がしたぞ!」と感じるのに必要な最低濃度のこと
また、同じ”におい”を嗅ぎ続けると、”におい”を感じられなくなることがありますよね?
その現象を順応と言います。
この記事を読めば、”におい”と閾値の関係や嗅覚の順応ついてカンタンに理解できます。
具体例を交えて解説するので、ぜひ最後までお読みください。
閾値とは?におい”を感じる最低濃度
”におい”における閾値(いきち)とは、”におい”を感じるのに必要な最低濃度のこと。
英語ではthresholdと書きます。
閾値は、日本大百科全書にはつぎのように定義されています。
ある作用によって生体に反応がおこる場合、反応をおこすのに必要なその作用の最小の強度をいう。
また、限界値、または「しきいち」ともいわれる。
日本大百科全書(ニッポニカ)
つまり、”におい”における閾値は、「においがした」と感じるために必要な最小濃度ということになります。
”におい”を感じるには、”におい分子受容体”(”におい分子”をキャッチするタンパク質)が活性化される必要があります。
この時、ほんの少し”におい分子”があるだけで活性化される”におい分子受容体”もあれば、ある程度の量がないと活性化されない”におい分子受容体”があります。
低い濃度で活性化される”におい分子受容体”と高い濃度で活性化される”におい分子受容体”の組み合わせの違いにより、同じ”におい分子”でも低濃度と高濃度で”におい”の質が異なると言われています。
例えば、インドール(Indole)という化合物は高濃度では糞臭がします。
しかし、低濃度ではジャスミンのような”におい”がすることで有名です。
なお、”におい”について初歩から勉強したいという方は、「香りとは心地よい”におい”のこと|香りの表現の種類も紹介」をお読みください。
検知閾値と認知閾値
閾値は2種類あります。
検知閾値
検知閾値は、「何かよくわからないけど、”におい”がする」最低濃度のことです。
「うまくは表現できないけど、とにかく”におい”はすることはわかる!」といった状態です。
認知閾値
認知閾値は、「”におい”の質までわかり、どんな”におい”か表現できる」最低濃度のことです。
「リンゴっぽい、草っぽい」などの表現ができる最低濃度が認知閾値です。
閾値の低い”におい”分子の具体例
閾値が低いということは、ほんの少量あるだけで”におい”がするということです。
例えば次のような化合物が有名です。
化合物名 | ”におい”の質 | 濃度(ppm) |
---|---|---|
メチルメルカプタン | 腐った玉ねぎ | 0.00007 |
スカトール | 糞便臭 | 0.0000056 |
イソ草酸 | ワキガ臭 | 0.000078 |
アセトアルデヒド | 刺激臭 | 0.0015 |
閾値でよく使われる単位についてもカンタンに説明します。
閾値でよく使われる単位
閾値を表すとき、よく使われるのがppm。
ppmとは100万分率のことです。
例えば、1Lの水に1mgの砂糖が溶けていたら、砂糖水溶液の濃度は1ppm(1 mg/1 L)となります。
ほかにもppb,pptなども使います。
ppm→ppb→pptの順に、1000分の1ずつ濃度が低くなります。
単位 | 意味 |
---|---|
ppm(parts per million) | 100万分の1(mg/L) |
ppb(parts per billion) | 10億分の1(μg/L) |
ppt(parts per trillion) | 1兆分の1(ng/L) |
メチルメルカプタンは小学校のプールに0.5滴垂らすだけで”におい”がする?!
単位を見ても、あまりイメージがわかないな・・・
それでは、メチルメルカプタンを例に、小学校のプールにどれくらいの量(x(mg)とする)を入れれば”におい”がするのか計算してみましょう!
メチルメルカプタンの認知閾値は0.00007ppm(0.00007(mg/L))として知られています。
標準的な小学校のプールの大きさは縦×横×深さが12(m)×25(m)×1.2(m)です。
つまり、360(㎥) = 360(L)です。
求めたい量x(mg) = 0.00007(mg/L) × 360(L) = 0.0252(mg)です。
水1滴はおよそ0.05 mL(0.05 mg)であることを考えると、水約0.5滴分で”におい”がすることがわかります。
※簡単のため、メチルメルカプタンの密度は1.0 g/㎤と仮定しています。
メチルメルカプタンをたった0.5滴プールに入れるだけで、「あれ、なんか玉ねぎくさくない・・・?」と感じる人がいるかもしれません。結構恐ろしい話ですよね😱
嗅覚の順応とは?
嗅覚の順応(じゅんのう)とは、”におい”に鼻が慣れてしまうこと です。
わたしたちはふだん生活していても、そこまで”におい”に意識がいかないですよね?
むしろ、ずっと”におい”に反応していたら疲れてしまいますよね💦
とはいえ、本当の意味で無臭の環境を作るのはむずかしく、実は今も何かしら”におい”がしているんです。
しかし、わたしたちはそれを感じることができません。
たとえば、つぎのようなケースは考えてみましょう。
- 友達の家にお邪魔したとき
- 香水を振りかけたとき
- パン屋に入ったとき
はじめは独特の匂いを感じますが、だんだんと”におい”に慣れて気にならなくなりますよね?
これこそが嗅覚の順応。
良くも悪くも、”におい”を感じなくなるので、多少の悪臭でも問題なく生活することができます。
もちろん、嗅覚の順応は良い面ばかりではありません。
本当は身体に悪い匂いなのに嗅覚が順応してしまったがゆえに、悪臭を嗅ぎ続けてしまうこともあります(タバコ・ハイターの匂いなど)。
順応は悪い方向に向かうこともあるんだね。
近年は香水のつけ過ぎによる香害(スメルハラスメント)も問題になっていますよね?
これも順応により、香水の香りに慣れてしまったことが理由の一つとして考えられます。
香水は正しくつけないと他人の迷惑になります。
香水の正しいつけ方については、「香水の正しいつけ方は?香水をつける量とタイミングも解説」でくわしく説明しているので、ぜひ参考にしてください。
さて、道を歩いているとご近所さんから何やらおいしそうな匂いが漂ってきて、「あ、カレーの匂いだ!」ってわかることがありますよね?
このように、他の”におい”がしてきたときに”におい”を知覚できることを、選択的嗅覚順応と呼びます。
順応は嗅覚だけでなく、視覚・聴覚など他の感覚でも起こる
順応は嗅覚だけに起こる現象ではありません。
たとえば、視覚を例にして考えましょう。
ほとんど真っ暗な部屋で目を開けても、最初は全く何も見えませんよね?
しかし、だんだんと目が慣れて周りのものがぼんやり見えるようになります。
これは、視覚の順応です。
また、テレビの音量が小さくて最初は聞こえにくくても、しだいにちゃんと聞こえてくるようになりますよね?
これは、聴覚の順応です。
順応は、人がその環境に適応しやすくするための生理的現象と言えます。
まとめ:閾値で化合物の匂いの強さがわかる
この記事では、においの閾値と嗅覚の順応について解説しました。
閾値・・・”におい”を感じる最低濃度で、検知閾値と認知閾値がある
順応・・・におい物質に連続的にさらされることで、その”におい”を感じなくなる現象
ふだんの生活の中で「あれ、さっきまで匂いがしていたのに何も感じなくなってる」とふと気付けるとおもしろいかもしれませんね。
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