この記事は、桃(モモ)の香りの成分について香りのプロがくわしく解説します。
桃(モモ)の香りの成分で特徴的なものってなんだろう?
なんでモモは甘くてジューシーな香りがするんだろう?
こんな疑問に香料メーカーで研究職として働いていた管理人がお答えします。
モモは子どもから大人まで愛される大人気のフルーツ。
柔らかくて噛めばジュワっと滴る甘い果汁、そして甘く華やかな香りに幸せを感じる人も多いはず。
ところで、モモの香りってどんな”におい成分”で構成されているか知ってますか?
モモの香りの成分は140種類以上報告されていますが、その中でも重要なのはγーウンデカラクトンなどのラクトン類です。
この記事を読めば、モモの代表的な香りの成分がわかり、モモの香りについてくわしくなれます。
モモを食べる時も「こんな匂い、確かにするかも!」と楽しめますし、お友達にも知識を自慢できるかも。
おススメのモモも紹介するので、ぜひ最後までお読みください。
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桃(モモ)とは?
甘くてジューシー、子どもから大人まで人気のフルーツ「桃(モモ)」。
モモはバラ科モモ属の落葉果樹で、原産地は中国(陝西省、甘粛省の高原)です。
日本には縄文時代後期から弥生時代にかけて渡来したとされています。
弥生時代の遺跡からはモモの種が見つかっているそうです。
農林水産省の品種登録データベースには、なんと307種ものモモ種が登録されています(2021年9月時点)
桃(モモ)の代表的な香りの成分
モモはこれまで140種類以上の香りの成分(におい成分)が報告されています(*1)。
桃の代表的なにおい成分はつぎのとおり。
主なにおい成分 | 構造式 | “におい”の特徴 |
---|---|---|
酢酸エチル | 軽い甘さ、フレッシュさ、除光液のような匂い | |
(E)-2-ヘキセナ-ル | グリーン、リーフ(草) | |
リナロール | 華やかさ、フローラル | |
γ-ウンデカラクトン | ココナッツ様、甘い、乳、果肉感 | |
β-イオノン | スミレ、ラズベリー | |
β-ダマセノン | 甘くフルーティー、調理したリンゴ様 |
それぞれ解説します。
酢酸エチル(ethyl acetate)
酢酸エチルはエステル類です。
ほとんどの果物に含まれているといっても過言ではなく、トップノートの軽くて甘いフルーティな香りに寄与するにおい成分です。
人によっては除光液のような匂い(セメダイン臭)に感じるかもしれません(わたしはそう感じます)。
単体では、弱い部類の”におい成分”です。
(E)-2-ヘキセナナール((E)-2-hexenal)
(E)-2-hexenalはアルデヒド類でフレッシュなグリーンな香りに寄与するにおい成分で、青葉アルデヒド、リーフアルデヒドとも呼ばれます。
他にもヘキサナール(hexanal)、(Z)-3-hexenol(青葉アルコール、リーフアルコール)などもグリーン感に寄与することで有名です。
ヘキサナールはリンゴの皮のような香りもします。
これらの成分は、成熟するにしたがって減少することが報告されています。
余談ですが・・・芝刈り機で草を狩ると辺り一面が強いグリーンな香りがしますよね?
これは葉の細胞が破壊され、(E)-2-hexenalなどのグリーン様の香りの成分が空気中に放出されるからです。
リナロール(linalool)
リナロールはモノテルペンアルコールで、華やかでスズラン様・ラベンダー様のフローラルな香りがします。
多くの花や果物に含まれるにおい成分で、閾値も低い化合物として有名です。
光学異性体のS体は”オレンジ様“、R体が”ラベンダー様“のにおいがすると言われています。
リナロールは熟度が進むと増加する成分であることも知られています。
γ-ウンデカラクトン(γ-undecalactone)
モモで特に重要な香気成分がγ-ウンデカラクトンをはじめとする”ラクトン類”です。
特にγ-ウンデカラクトンはモモで感じられるクリーミーさ、濃厚なジューシーさ、ココナッツ様の重く甘い香りに寄与する香気成分です。
ピーチアルデヒド(C11アルデヒド)とも呼ばれ、炭素11個からなる環状エステルの構造とります(Cは炭素の意味)。
ちなみに、ウンデカとは”11″の意味です。
γ(gamma)は5員環、δ(delta)は6員環を意味します。
ラクトンには他にも
- γ-ヘプタラクトン(γ-heptalactone)
- γ-デカラクトン(γ-decalactone)
- γ-ドデカラクトン(γ-dodecalactone)
- δ-デカラクトン(δ-decalactone)
などがあります。
ラクトン類は熟度が進むにつれて増加することが知られています。
ラクトンとは?
ラクトンとは環状エステルのことです。
環状エステル…???
エステルとは「ヒドロキシ基(-OH)とカルボキシ基(-COOH)が脱水縮合して生成した化合物」。
そして、この二つの官能基が同一分子内で脱水縮合してできるのが環状エステルです。
ラクトンの構造式を見ると、分子は(-O-C=O)という構造を持ち、環の形を持っていることがわかります。
余談ですが、ラクトンの中でも
- C10ラクトン(γ-ドデカラクトン)
- C11ラクトン(γ-ウンデカラクトン)
は10代から20代の若い女性の体臭として知られています(ロート製薬が発見)。
これについては「デオコがすごい!10代の女性のニオイを科学的に解明し商品化」で触れているので興味があれば読んでみてください。
β-イオノン(beta-ionone)
β-イオノンはテルペノイドの一種で、スミレ様・ラベンダー様の香りがします。
β-イオノンは閾値が低いので、香りに与える影響も大きいのですがβ-イオノンにはおもしろい話があります。
β-イオノンは嗅覚受容体の遺伝子の違いで香りを”感じやすい人”と”感じにくい人”に分かれます。
そして、β-イオノンの香りを感じやすい人は食品に添加されると好ましく感じず、逆に感じにくい人は添加されたほうを好むという興味深い話もあります。
遺伝なのでどうすることもできませんが、果たしてあなたはどちらのタイプなんでしょうね?
β-ダマセノン(β-damascenone)
β-ダマセノンはテルペノイドの一種で、甘くフルーティーな香りが特徴で、加熱したリンゴ様、蜂蜜、バラ様のように表現されます。
バラやコーヒー、バニラ、茶類などに含まれており、閾値が低い香りの成分として有名です。
ちょっと入れるだけでフルーティーでジューシーな香りを演出できるので、香料作りでも重宝されます。
桃(モモ)の旬は?
モモの旬は「7月から8月」で、10月上旬まで楽しめます。
桃の収穫時期は大きく分けて早生・中生・晩生の3つに分けられます。
早いと5月くらいから店頭に並ぶそうですが、残念ながら私は直接見たことがありません💦
一般的な旬は7~8月で、多くの品種が食べごろを迎えます。
晩生種ではもう少し遅く9月下旬から10月上旬頃まで楽しむことができます。
桃(モモ)の保存方法は常温保存!食べ方も解説!
桃(モモ)はつい冷蔵庫に入れたくなりますが、常温保存が基本です。
まだ実が固い桃は、常温で保存することで追熟して柔らかくなります。
ある程度柔らかくなるまでは風通しの良い場所に置いて追熟しましょう!
柔らかくなったか確認するのは良いですが、ブニブニ触りすぎると傷むので絶対NG!
柔らかい桃は甘くて美味しいですが、傷みやすいです。
あまり保存がきかないので早めに食べてしまいましょう!
冷蔵庫で保存したい場合は、ひとつずつ新聞紙などで包むことで乾燥を防ぐことができます。
さらにポリ袋に入れて、野菜室程度の温度で保存するより良いです。
柔らかい桃は、食べる1~2時間前から冷蔵庫で冷やすようにしましょう。
桃(モモ)の種類とおススメは?
桃の種類は、大きく分けてつぎの5種類。
特になじみ深いのは”白桃”や”黄桃”だと思います。
それでは紹介します。
白桃(はくとう)
淡いピンク~白色が特徴的な白桃(はくとう)。
おなじみの品種で、ラクトンの重甘い香りをベースに上品な香りが鼻をくすぐります。
生の白桃は自分へのご褒美はもちろん、贈答用でもGood!
ジューシーで強い甘みがあり、老若男女問わず人気の大定番品種です。
黄桃(おうとう)
その名の通り、明るい黄色が美しい「黄桃(おうとう)」も人気の品種です。
果皮はもちろん、果肉まで黄色いのが特徴で他のモモに比べて少し硬くシャキっとした歯ごたえがあるのが特徴。
マンゴーのような香りも感じられ、程よい食感・酸味があるので飽きずに食べ続けることができます。
この酸味が良いアクセントとなり、モモの甘さの引き立て役となります。
白鳳(はくほう)
果肉中心部の鮮やかな紅色が鳳凰のようであることから、白鳳(はくほう)という名前がつきました。
高貴な甘い香りがし、食感もよく、果汁は溢れ出るほどで、甘みも抜群です。
食べたことが無いなんてもったいない!
ぜひお手に取って試してみてください。
蟠桃(ばんとう)
蟠桃(ばんとう)は、モモの原種に近く中国原産と言われています。
平たい形をしており、中国では「不老不死の仙果」と言われ、楊貴妃が好んで食べたと伝えられています。
西遊記の孫悟空が食べたのもこの蟠桃。
熟すと甘い香りが強く感じられ、果肉はやや黄色っぽいですが中心部が紅色です。
流通量が少ないので、見かけたらぜひ!
ネクタリン
ネクタリンはモモの一種です。
これまで紹介した4つのモモの品種と異なるのは酸味が強いこと。
甘酸っぱさが特徴ですが、香り自体はモモそのもの!
モモの2割程度しか流通量が無いので、希少性は高いです。
桃(モモ)の家系図(築地市場ドットコムより)
モモの家系図が気になったので、調べたら築地市場ドットコムさんから紹介されていました!
異なる品種を掛け合わせることで、香りの特徴が大きく変わることがあるので研究でも重要視されるポイントです。
これを作るのはものすごく大変ですよね💦
素晴らしいの一言です✨
まとめ:桃の香りは、γ-ウンデカラクトンなどの”ラクトン類”が重要!
この記事では、モモの香りについて解説しました。
- モモは140種類以上のにおい物質(香気成分)が報告されている
- モモの香りで特に重要なのは、γ-ウンデカラクトンなどのラクトン類
モモをおいしく食べられるシーズンは意外に短いです。
「まだ大丈夫!」なんて油断していると、うっかり食べ損ねてしまうことも・・・。
今年の桃をまだ食べていない人は、ぜひ食べてみてくださいね!
モモは贈答用として送っても喜ばれますよ。
そして、”ラクトン”を存分に感じてみてくださいね✨
香りを化学的に理解したい人は、ほかの記事で解説しているのでぜひ読んでみてください。
参考文献
- *1 香料の化学(長谷川香料株式会社、初版)
- *2 桃の品種別香気成分分析(季刊香料、245号、p.69-78)
香りのプロがくわしく解説!