この記事では、香料の定義や天然香料と合成香料の違いについて香料メーカー元研究職のわたしが解説します。
よく原材料に”香料”って書かれているけど、香料って何なんだろう?
香料って天然香料と合成香料があるって聞いたことがあるけど、どんな違いがあるんだろう?
そんな疑問に香料のプロがお答えします。
突然ですが、あなたは「香料とは何か」と聞かれて答えることができますか?
う~ん、そう聞かれるとよくわからないかも・・・
大丈夫です、一緒に学びましょう
香料について、カンタンなまとめを書いておきますね。
- 香料とは、主に商業目的で製造販売される香気を持った化合物や集合体。
- 香料は大きくわけて天然香料と合成香料に分けられる。
- 天然香料の作り方には「水蒸気蒸留、溶剤抽出、圧搾」などの手法がある
- 合成香料には、「単離香料、半合成香料、合成香料」がある
この記事を読めば、「香料とは何か」について理解でき、「天然香料と合成香料の違い」についても理解できます。
これであなたも香料にくわしい人の仲間入りです♪
ぜひ最後までお読みください。
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香料とは何か?
香料とは、『主に商業目的で製造販売される香気(香り)を持った化合物や集合体』です。
うーん💦ちょっとむずかしい表現でわからない…
もう少し噛み砕くと、「食べ物や香粧品などに香りをつけるためのモノ」です。
香料は
- 「飲料やお菓子」のような”食品”
- 「化粧品や柔軟剤、香水」のような”香粧品”
にまでさまざまな用途で用いられています。
食品の例
香料の例
香料が無ければ、かき氷のシロップもただ甘いだけのシロップに・・・。
イチゴやメロンなどの香りは楽しめなくなってしまうんです😭
みんなが毎日のように使う洗剤だってそうです。
香料が入っていないと基材由来の”独特の油くささ”を感じてしまいます。
このイヤなニオイを香料によって感じにくくしているんですよ。
これを『マスキング』と言います。
香料は、わたしたちが楽しく健やかに生きていくために欠かせないモノなんです。
”香り”や”におい”の言葉の意味や化学的な解釈については
でもくわしく解説しているので、ぜひお読みください。
さて、香料は大きく分けて2種類あります。
天然香料と合成香料です。
天然香料と合成香料の違い
天然香料は文字通り、動植物などの天然物から採取される香料です。
天然香料は、さらに
に分けることができます。
フレーバー(食品)用の天然香料は、食品衛生法によりつぎのように定義されています。
「この法律で天然香料とは、動植物から得られたもの又はその混合物で、食品の着香の目的で使用される添加物」
(食品衛生法第4条3項より)
少しむずかしい表現ですよね・・・。
要するに、香りをつける目的で食品に使われる添加物が”食品香料”における天然香料の扱いです。
一方、フレグランス用の天然香料は、長年使用されており安全性が確認されている化合物が利用されます。
しかし、天然物からとれる香料はわずかなことが多く、コストが高くなりがちなのがデメリットです。
合成香料は主に有機合成によってつくられた化合物で、単品の化合物であることがほとんどです。
高濃度かつ高純度(95%以上)のものが多く、「ピンポイントで○○の香りを強めたい!」なんて時に使用します。
これまで多くの化学者によって、構造が複雑な化合物が合成・同定され、今でも新規化合物の報告がされています。
フレーバーとフレグランスとは?
ここまでで、フレーバーとフレグランスという用語が出てきたのでカンタンに説明します。
フレーバーは”食品香料”、フレグランスは”香粧品香料”のことです。
それぞれ「フレーバーとフレグランスの違いは”たった1つ”」でわかりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
日本では、フレーバー(食品香料)とフレグランス(香粧品香料)だと、フレーバーのシェアが85%以上であることが知られています。
意外でしたか?
香料って言葉だけを聞くと、フレグランスの利用が多いように思いがちですが、実は圧倒的にフレーバーとしての需要の方が多いんです。
香りハピネスでは、香料統計に関する記事も書いています。
興味があればぜひお読みください。
天然香料とは?
天然香料は動植物を原料として
などの物理的方法や酵素処理で取り出した物が代表例となります。
天然香料の種類は1,500以上あるとも言われます。
日本国内では数百種類利用されていますが、ほとんどは海外から輸入しています。
天然香料の主な作り方3つ
天然香料の作り方には大きく分けて3つの方法があります。
水蒸気蒸留は、沸点の高い物質を水と蒸留して、その物質の沸点よりも低い温度で留出させる蒸留法です。
沸点の高い物質の蒸気圧と水の蒸気圧の和が全圧になります。
水蒸気圧が高い沸点の成分の蒸気圧を減少させることで、低い温度で蒸留ができます。
よって、精油の沸点(150〜350℃)よりも低い温度で蒸留ができ、歴史ある蒸留法のひとつです。
スケールが大きい生産の場合において、もっともよく使われます。
エタノール、ヘキサンなどの有機溶剤に天然物を漬け込み、におい成分を採取する方法です。
最近では超臨界CO2抽出という抽出溶剤としての残留性がない抽出法もあります。
非加熱な抽出法なのでにおいの変化も少ないのがメリットですが、コストがかかるのがデメリットです。
レモンなどの柑橘類を絞ってエッセンシャルオイル(におい成分を含む揮発性油)を採取する方法です。
たとえばレモンでは、油胞(ゆほう)に精油が含まれます。
果皮を絞る(圧搾)と油胞が破壊されることで、精油を集められます。
天然香料の種類:動物由来香料と植物由来香料
動物由来原料の天然香料のうち、フレグランス用として利用される香料があります。
動物由来香料
動物由来香料の代表例はつぎの4つです。
- ムスク(麝香:ジャコウジカのオスの生殖腺嚢の分泌物)
- シベット(霊猫香り:ジャコウネコの雌雄の分泌腺嚢の分泌物)
- カストリウム(海狸香:ビーバーの雌雄の分泌腺嚢の分泌物)
- アンバーグリス(竜涎香:マッコウクジラの腸内結石)
分泌物や内臓にできる結石から”良いにおい”がするなんて、おもしろいですよね?
しかし、現在ではワシントン条約による動物愛護の観点から、動物性香料を入手することは極めて困難です。
とはいえ、たまにアンバーグリスが浜辺に打ち上げられていて、それを拾った人は1kgあたり300万円近いお金を手にすることも・・・!
もし海辺で拾ったら、kaoriにおすそ分けしてくださいね(笑)
ほかにも動物由来の香料は、畜肉・乳製品に対する加熱・酵素反応などを用いて作られます。
植物由来香料
植物由来の香料は、植物のさまざまな部位から作ることができます。
- 花
- 葉
- 樹皮
- 根茎
- 果実
- 種子
などなど・・・
植物も部位によって”におい”が全く異なるので、どこの部位から香りを抽出するかは大事なポイントです。
例えば、バラやジャスミンなどは花から香りを採取します。
バラの花を5t(トン)用意して、ようやく1kgの精油が採れます。
収率としては、たったの0.02%程度・・・😱
そのためコストもどうしても高くなります。
バラの天然香料では1kgあたり数百万円することもザラにあります。
ひぇっ…、、高い!
こぼしたら大変です!💦
樹皮ではシナモン、種子ではコショウやポピーなども有名ですね。
合成香料とは?
天然香料は数多くの化合物の組み合わせで成り立っていますが、合成香料は高純度の単一の有機化合物です。
なお、高純度とは一般的に95%以上の含有率を表すことが多いです。
さて、こんな質問が聞こえてきそうです。
天然香料があるなら、天然香料だけを使えばいいんじゃないの?
わざわざ合成香料なんて作らなくてもいいんじゃないの?
なんか危なそうだし・・・
天然香料は良い香りがしますが、つぎのようなデメリットがあります。
- 天然香料は化合物の集合体だから、他の香料を作るときに特定の香りだけ強めることができない
- 品質にムラがある(におい成分のバラつきが年により異なる)
- 天災の影響で香料の元となる植物の収穫量にブレがある(価格が変動しやすくなる)
- 製造コストが大きい
上のような理由から、いまや合成香料はわたしたちの生活に欠かせない存在になっています。
もちろん、合成香料は安全面に十分配慮されて作られているので安心してくださいね。
また、天然香料に含まれている成分すべてが、必ずしも”におい”に貢献しているわけではありません。
例えば、レモンなど柑橘類の精油に9割程度含まれる化合物として、”リモネン(limonene)”があります。
しかし、実はこのリモネン・・・
匂いの寄与度はとても小さいんです!
リモネンは果皮にたくさん含まれているのにも関わらず、におい自体はそれほど強くありません。
むしろ、ごく微量しか含まれていない成分こそが、かなり強い”におい”を持つことがあります。
そのため、有機合成などによって本当に”におい”に効く化合物をピンポイントで合成し、合成香料として利用することは理にかなっていると言えます。
合成香料の種類
合成香料もまた、いくつかの種類に分けることができます。
動植物由来の原料から、蒸留・抽出・再結晶・昇華などにより単体として得た香料
単利香料の具体例としては、ℓ-メントールがあります。
くわしくは「メントール(Menthol)とは?香りのプロがわかりやすく解説!」をご覧ください。
動植物由来の原料から、蒸留・抽出・再結晶・昇華などにより単体として得た香料
単離香料として精油から得られた化合物に対して、さらに有機合成を行い得られる香料
既存の単体香料を用いて、有機合成を駆使して得られる香料
合成香料を作る際はつぎのようなポイントがあります。
- 工程数を可能な限り少なくする
- 収率の高い合成ルートを選択する
- 安い原料を用いる
- 安全な手法を用いる
工程数を限りなく少なくすることは重要です。
例えば、一回有機合成を行うと90%の収率で目的の化合物が得られるとします。
90%も変換できたら良い収率です。
しかし、工程数が多くなるとどうでしょう?
2回収率90%の反応を行うと0.9×0.9=0.81です。
収率が81%になってしまいました。
3回収率90%の反応を行うと0.9×0.9×0.9=0.73です。
収率が73%になってる・・・。
どんどん減っちゃうんだ。
このように、ひとつひとつの反応が収率90%でも、工程数が増えれば増えるほど全体の収率としては下がってしまいます。
合成のステップ数を可能な限り減らし、収率よく合成するのが研究者の腕の見せ所です。
天然香料の話でも触れましたが、ワシントン条約により動物から天然香料を製造することはできなくなりました。
しかし、においに効く成分を化学の力で作ることができれば、動物を傷つけずに済みますよね?
もちろん、人は独特な素晴らしい香りを、より安価に楽しむことができます。
合成香料は動物のことも考えた、”やさしさ”のある香料なんです。
まとめ|天然香料と合成香料は互いの長所・短所を補い合っている
この記事では、「香料とは何か?」と「天然香料と合成香料の違い」について解説しました。
まとめです。
- 香料とは、主に商業目的で製造販売される香気を持った化合物や集合体
- 香料は大きくわけて天然香料と合成香料に分けられる。
- 天然香料の作り方には「水蒸気蒸留、溶剤抽出、圧搾」などの手法がある
- 合成香料には、「単離香料、半合成香料、合成香料」がある
少しむずかしい内容もあったかもしれませんが、何度か読み直して勉強してみてくださいね!
参考文献
香料の科学(長谷川香料株式会社,講談社)