日本各地で見られるバイオレット(スミレ)の花。
まだ寒い12月頃から咲き始める種類もあり、春を告げる草花として大変親しみのある植物です。
世界には450以上もの品種があるとされ、日本に自生するのは約80種。
香水の原料として用いられるのはニオイスミレと呼ばれる種類で、ヨーロッパから北アフリカ、西アジアが原産です。
古代からヨーロッパの人々の身近な存在だったニオイスミレは、呼吸器官系のトラブルを治療する薬草として使われてきた歴史があります。
たくさん種類があるバイオレットですが、この記事では、香料の原料として重用されてきたニオイスミレにフォーカスして、バイオレットの香りや効果効能について、くわしく解説します。
バイオレットを深掘りすれば、「どんな香りなのか」が気になること間違いなし。
道端で懸命に咲いているスミレを見る目も変わるかも。
ぜひ最後までお読みください。
バイオレット(スミレ)とは?
原料植物名 | バイオレット |
別名 | スミレ、ニオイスミレ、スイートバイオレット |
科名 | スミレ科 |
学名 | Viola odorata |
主な産地 | ヨーロッパ、北アフリカ、西アジア |
主な抽出部位 | 花、葉 |
抽出方法 | 溶剤抽出法 |
成分例 | トランス-2、シス-6-ノナジエナール、トランス-2、 シス-6-ノナジエノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、オイゲノールなど(※1) |
バイオレットの精油は2種類あります。
花から採取する「バイオレット・フラワー」は甘く清楚なフローラルな香り、そして葉から採取する「バイオレット・リーフ」はキュウリや若草に似たグリーン調の香りで、いずれも溶剤抽出法で抽出されます。
この方法で抽出されたものを「アブソリュート」と呼びます。
アブソリュートとは?
有機溶剤で香気成分を抽出したあとに溶剤を回収除去したものを、「コンクリート」と呼びます。
※樹脂などの抽出物はレジノイドと呼ばれます。
この「コンクリート」に対し、さらにエタノールで抽出したものをアブソリュートと呼び、「Abs.」のように表すことがあります(Absoluteの前3文字+ピリオドで表記)。
水蒸気蒸留による抽出では熱によって香りが劣化することがありますが、有機溶剤などで香気成分を抽出した場合は熱がかからないので、ナチュラルな香りが取れます。
但し、有機溶剤が残留しないように注意が必要です(不揮発性成分も多少混ざります)。
「バイオレット・フラワー」は、以前は南フランスやイタリアで盛んに生産されていました。
しかし、手間やコストがかかること、そして「イオノン」というスミレ様の香りの安価な合成香料を作れるようになったので、今では市場にあまり出回らない希少な精油となりました。
市販されているバイオレットの精油は、葉から抽出する「バイオレット・リーフ」が主流です。
何にも置き換えできない、唯一無二のグリーン調の奥ゆかしく濃厚な香りは、プロの調香師やアロマテラピストも「扱いがむずかしい」と漏らしてしまうほど個性的。
単体よりは他の香りとのブレンドすることで、その魅力が発揮されます。
ブレンドがうまくいくと、春の若草のような、みずみずしい優美さを香りに演出します。
アロマテラピーより香水として用いられることが多いのも特徴的で、バイオレットは高級香水に欠かせない存在です。
また、バイオレットは民間医療に必要な薬草として、中世ヨーロッパで利用されてきた歴史があり、気管支炎、咳や痰、喉の不快感など、呼吸器系のトラブルの緩和に用いられていました。
香りには、イライラや不安感を鎮めたり、緊張感をやわらげたり、リラックスする効果や、恐怖を克服したり、強迫観念から解放したり、愛する人との死別のツラい気持ちをいやす作用もあるとされています。
バイオレットはどんな香り?
バイオレットの花の香りは、どんな香りなの?
スミレはフローラル調の香りの裏に、メタリックで力強いグリーンノートも感じさせます。
少しキンキンした青臭さがあるんですよね。
カクテルが好きな人なら「バイオレットフィズ」の香りから何となくイメージができるかもしれません。
バイオレットフィズはニオイスミレやバラ、バニラ、オレンジピール、アーモンドなどで香りづけしたリキュール「バイオレットリキュール」を使ったカクテルです。
バイオレットは香りがよいことから、ヨーロッパでは昔から香料や化粧品だけでなく、リキュールや食用などに加工されていました。
花の香りのもととなる精油は、以前は花からで抽出されていました。
しかし、手間とコストがかかること、バイオレットの香りのキーである「イオノン(ヨノン)」の合成香料ができたので、今ではスミレの香調を出すときにイオノンが使われます。
イオノンの登場により、バイオレットの香りはより身近な存在になりました。
バニラエッセンスのように誰でもチョコレートやクッキー、アイスクリームといった食品に香り付けできる食品添加物「バイオレットエッセンス」というものもあり、さわやかな甘さのある香りは、食品や嗜好品の分野でも愛されています。
一方で、バイオレット・リーフの香りは、キュウリや若草に似た個性的なグリーン調の香り。
香水を作るときにブレンドすると、その香りにみずみずしいグリーン調をプラスしたり、フローラル系とウッディー系の香りの調和を取るのに重要な役割を果たし、高級香水に重用されています。
フレグランスの世界では「アイリス(イリス)」の香りを「バイオレット調(様)」と表現します。
アイリスの香料は花からではなく根から抽出しますが、その根に多く含まれているのがイオノンやイロンで、それがバイオレットの花の香りを連想させるというわけです。
しかしながら、葉であるバイオレット・リーフにはこれらの成分はほとんど含まれていません。
香りは成分で成り立つものですが、バイオレット本体でなく、他の植物でバイオレットの香りを表現するのも面白いですよね。
バイオレットの効果効能・生理・心理効果
バイオレットにはどのような効果効能があるのでしょうか。
生理効果、心理効果もあわせてご紹介します。
効果効能
ヨーロッパでは呼吸器官系のトラブル緩和に薬草として使われていた歴史があり、気管支炎やのどの痛み、咳や痰の緩和に用いられていました。
また鎮痛作用もあるとされ、頭痛や偏頭痛、関節痛などを緩和する効果も期待できます。
ニキビや湿疹などの肌のトラブルにも効果的な抗炎症作用、ケガの痕を修復する創傷治癒作用もあるとされています。
また、利尿・発汗・循環器系刺激作用などもあるため、冷えやむくみ、痛風、リウマチなどの緩和にも効果が期待できるでしょう。
※効果・効能を保証するものではありません。
生理効果
頭痛や二日酔いの症状を緩和したり、不眠症を改善する催眠作用もあるとされています。
またバイオレットの香りは、肌の生まれ変わりを担う肌の幹細胞に働きかけ、元気のない肌を若々しい肌に導く効果が報告されています。(※2)
心理効果
バイオレットの香りには鎮静作用があり、イライラする気持ちや不安感を鎮め、恐怖感、緊張感から心を解き放ってくれます。
また人間関係で心が疲れてしまったときにも効果が期待できます。大切な人を失ったり、ペットを亡くしたりと、悲しい別れで落ち込んだ心を癒す効果もあるとされています。
バイオレットの精油と使い方
バイオレットの効果効能をふまえた上で、暮らしへの取り入れ方についてご紹介します。
呼吸器官のトラブル緩和に
バイオレットには、呼吸器官のトラブルを緩和する効果があるとされています。
気管支炎や咳、のどの痛みの緩和には芳香浴法が手軽でおススメです。
洗面器や大きめのマグなどにお湯を入れ、そこにバイオレットの精油を垂らします。
バイオレットは少量でも香りが強い精油なので、入れすぎないように気を付けましょう。
頭からバスタオルなどで覆い、湯気とともに上がってくる香りが逃げないようにして、目を閉じてゆっくりと深呼吸しながら嗅ぎます。
フランスでは、お茶として服用すると頭痛に効果があるといわれています。
心のリラックスに
リラックス効果があるバイオレットの香り。
単体では少し使いづらいところがありますので、他の精油とブレンドして取り入れてみましょう。
オレンジやレモンなどの柑橘系、クラリセージやスペアミントなどのハーブ系、そしてスパイス系の香りとの相性が良い精油です。
アロマディフューザーやアロマスプレーを使えば、手軽に暮らしに取り入れることができます。
イライラした気持ちや不安感が緩和されたり、悲しい気持ちや心の疲れを癒す効果が期待できます。
また安眠効果があるラベンダーとブレンドすれば、より深い眠りに導いてくれることでしょう。
バイオレットの精油の禁忌(注意点)
肌に効果的な成分が含まれている精油ですが、刺激を与える可能性がありますので、肌に直接付けることは避けましょう。
また筋肉や血管を縮める収れん作用がありますので、妊娠中や授乳中の方も使用しないほうがよいでしょう。
バイオレットはとても香りが強く、1滴に満たない量でも強く香ります。
希釈されていないものは使い切るのがとても難しいので、2~10%程度に希釈されたものを購入することをおススメします。
バイオレットの精油のおすすめと買える場所
バイオレット・フラワーの精油は、一般には流通していません。
こちらでは、バイオレット・リーフの精油が買えるお店をご紹介します。
FLORIHANA【アブソリュート バイオレットリーフ】
南フランス発のオーガニックアロマテラピーの専門店。
厳しい国際基準をクリアしたオーガニック認定商品を生産しています。
AMPHORA AROMATIC【バイオレットリーフAbsアロマオイル】
1984年創業の英国ブランド「アンフォラアロマティクス」。
アロマの本場英国で生まれる、品質の高い製品を提供しています。
バイオレットと文化
古来から、バイオレットは人々の生活に近い場所に咲く、身近な花でした。
ニオイスミレのように香りのよいスミレが自生するのはヨーロッパがほとんどですが、自然界が冬支度に入った12月に、鮮やかな緑の葉を茂らせ香りのよい紫の花を咲かせるバイオレットは、きっと人々の心を癒したことでしょう。
紀元前にはすでにギリシャで栽培されていた記録が残っており、バイオレットに関する習慣や伝承が、ヨーロッパ各地で存在しています。
バイオレットはその香りから香水や食品の原料として、また薬効から薬草としてヨーロッパで盛んに栽培されてきました。
香水産業が盛んだった時代、フランスのコートダジュールのトゥレット・シュル・ルー村ではバイオレットの栽培が主要産業となり、香水産業のメッカであった街グラースにその多くが運ばれ、エッセンシャルオイルの原料となりました。
近年ではめっきり生産量が減ってしまいましたが、数軒の農家がバイオレットの栽培を続けています。
この村は「スミレの村」と呼ばれ、花の砂糖漬けはもちろんのこと、アイスクリーム、ジャム、はちみつ、お茶など、さまざまな加工品を製造・販売しています。
毎年2月の終わりから3月に開催される「スミレ祭り」では、小さな村がたくさんの観光客でにぎわうそうです。
バイオレットの花言葉
バイオレット全般の花言葉は「誠実」「謙虚」「小さな幸せ」です。
道端やアスファルトのすき間でも、つつましく懸命に花を咲かせるバイオレットの姿に由来しているのでしょう。
ニオイスミレには「高尚」「秘密の愛」「奥ゆかしい」などの花言葉がついています。
花の色別では、つぎの通りです。
- 紫 「貞節」「愛」
- 青 「用心深さ」「愛情」
- 白 「あどけない恋」「無邪気な恋」「純潔」
- 黄色 「田園の幸福」「つつましい喜び」
- ピンク 「希望」
バイオレットの香りで特別感ある暮らしを
身近な存在の野草のひとつ「バイオレット(スミレ)」の香りや効果効能、暮らしへの取り入れ方などについてくわしく解説しました。
ニオイスミレの自生地であるヨーロッパでは、紀元前からさまざまなカタチで人々の暮らしに取り入れられてきました。
今でも高級香水から食用まで大活躍です。
日本に自生するスミレは別の品種であるため、香りがないものが多いですが、園芸店などに行けばニオイスミレを手に入れることができます。
ニオイスミレの花は香りが強いので、部屋に広がりやすいです。
花からとれる「バイオレット・フラワー」の精油は手に入りにくいですが、リアルな花のフレッシュな香りなら楽しめますよ♪
参考文献
参考文献はつぎのとおり。
バイオレットに関するよくある質問
バイオレットに関するよくある質問を解説します。
- バイオレットの香りの特徴は?
-
甘くさわやかな香りのバイオレット。カクテル「バイオレットフィズ」に使われるバイオレットリキュール、またスミレの香りを添加したお菓子などで、その香りを嗅いだことがある方もいらっしゃるでしょう。ニオイスミレの花から抽出する精油「バイオレット・フラワー」は、バイオレットの香りを忠実に再現できる合成香料「イオノン」に置き換わってしまい、今ではほとんど流通しない希少な精油となりました。バイオレットの精油は葉から抽出する「バイオレット・リーフ」が主流で、こちらはキュウリや若草のような、個性的なグリーン調の香りが特徴。高級香水には欠かせない存在で、他の香りとブレンドすることでその香りの魅力が花開きます。
香りに違いはありますが、ストレスを解消したり、緊張感をほぐしたり、悲しみで沈んだ心を癒したりと、心に良い働きかけが期待できます。
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